私の身近には、
机に向かう勉強なんかよりずっと大切なことがある、と
生き生きと活動している素敵な大人が何人もいます

そういう方々は異口同音に、
自分は勉強は苦手だったから、ともよく言っています

私は、子どもの頃、勉強が好きだったし、中学校までは苦手でもなかったので、
「勉強」そのものを悪者にされたり、あまりにも嫌われたりすると、
ちょっと「勉強」に同情して寂しくなることがあります

勉強が好きだったのはなんでかな
テストもゲームみたいで好きだったし、受験勉強も楽しかったし…

スポーツも苦手ではなかったけれど、なんていうか、
練習の成果が現れづらいというか、
長年専門的にやっている人が登場すると全く比べものにならなくて、
そういう方に頑張ってもらおう、なんて思ってしまうのだけれど、
勉強だけは、自分自身の努力と工夫次第で、
すぐに結果が出せるし、どうにでもできる、という安心感がありました

まさに、
自分とのたたかい
自分への挑戦
だから、自分の弱さも露呈します

本当に情けなくてどうしようもない大学受験生だった頃のことを思うと、
自分の弱さ、醜さ、どうしようもなさが今ではよくわかり、
愛おしくさえ思うのです

だって、それが自分
それがわたしなんですから

それを知らずして社会人にはなれないぞ、と本気で思うのです
だから、表面的な「勉強もどき」で点数をとっても、
その先が心配なのよ、ということなんです

苦手なことがわかって、それについてはどう対処しよう、なんなら、どうごまかそう、
得意なことがわかって、それをもっと伸ばそう、もっと自信をつけよう、
勉強というのは、その繰り返しなんです

わからないぞ、
じゃあ、どうしよう
わかるようになりたいな、
そこまで気持ちがいくかな、ってとこなんです

夕べ、
「証明が全然わからない」と、恒例の「ざっくり質問」が中2から襲来
「出た!証明の何がわからないのさ!?どの問題?」
「う~ん…」

その子が持っていた学校の問題集を使って、基本的な証明問題を順を追って説明していると、
全然、納得していない表情
…もしかして…??

「仮定ってなんですか」

…そうか、やっぱりそこからか!!!

「わかった。証明問題っていうことの、最初っから話すからね。
 証明問題は、犯人を追い詰めていく刑事なの。
 逮捕するには、絶対的な証拠が必要なの。
 それも、1つじゃダメ。
 もう、これは絶対、犯人ですよっ!!って断定できるだけの証拠が、
 いくつか必要なの。」

私に証明問題の解説を依頼した生徒なら誰でも聞いたことがある、
「証明問題=犯人逮捕への証拠集め」
というたとえ

~解説中略~

「仮定というのは、もう既に出ている証拠のことなの。
 問題文中と、図形の中に書き込まれているよね。
 でも、これだけじゃ(三角形の合同条件=逮捕、に)足りない。
 あと1つだけ、証拠が欲しいな。
 あと何がつかめれば逮捕できると思う?」

「この角度かな…」

「そう、この角度が同じだ!という証拠を突きつければ、
 いよいよ犯人確定だよね。それが3つめの証拠なんだ。
 対頂角だから等しい、っていう、その事実は、仮定として提示されていない、
 自分で見つけるんだよ。見つけたから、ここに書くの。これが証拠だ!って
 まあ、実は目星はつけているわけ。犯人はヤツだな、って
 それで、その周辺を洗っていく、という作業でしょ
 証明も全く同じで、最初に合同条件の目安をつけておくの
 そのためにはこの角度か、この長さだな、とね」

~解説後略~

「なんか、クラスで数学の得意なヤツが、「証明問題は難しくてわかんない」って言っていたのを聞いて、すごく難しいと思いこんでいたし、学校の先生の解説も意味がわからなかったけど…」と何となく納得した表情に変わったので、

「あとは、この問題集の証明問題をかたっぱしから解いてごらん。それで、質問して。ひとりでする時は、解説をみちゃっていいんだよ。それで、そのうえで、「なんでこうなるん?」っていうのを、ここへ持ってきて質問して。」


それからずっと、彼は証明問題を解いていました
最後に「あまり難しくないってわかった…」と拍子抜けした様子でした
「手ごわい犯人もいるからね、証拠がそう簡単には見つからないヤツもね。
 それが面白いんだよ。証拠をなんとしてでも集めるんさ」

わからないままその問題集を埋める作業は、
きついだろうなあ…と思います
でも、少しでもわかって解いてみれば、
あっというまに数ページ攻略できてしまいます

同じ教室にいた、中1の子が、
以前私が解説した理科の濃度の解き方を実践して学校の先生に提出したら、
解き方は学校の先生とひとつも合っていなくて、答えだけが合っていて、
その解き方について学校の先生が「こういう解き方もあるんだあ!」と驚いていた、と報告してくれました

逆に学校の先生の解き方が知りたいなあ!!
そんなに変わった解き方でもないのになあ…

またまた別の中1の子とは、言葉の問題を実践していました
口頭試問には強いその子の弱点は黙ってテスト紙面を読み取って黙って書いて答えること
彼が強化すべき点はそこなのだ、と宣言してから始めた学習法です
ヒントをもらうのは簡単
そこに誰かがいればね
声に出して読むこともできる
テストじゃなかったらね
でも、学校のテストも、入試も、声を出してはいけないし、もちろんヒントももらえない
だから、その弱点は結構やばいかもよ!(って脅しつつ)
でも、すごいことだからね、口頭試問だとすごくよく考えられるし、
適確に答えられる!すごい力を持っているんだからね
その上での、弱点強化
その子も楽しそうに「弱点克服」に取り組んでいました

ある子は「オレンジノート」(という、自分の学習状況を記録するノート)に、
「○○の単元に入りました!すごく面白いです!」
「○○を習い始めました。難しいけど、楽しいです」
などと一言日記や質問をどっさり書いてくれます
最近では、校外学習で行った東京で見た某総理大臣の銅像から興味を持って、
歴代内閣総理大臣を全部調べるのだ、と自主勉ノートになにやら書き始めました
「どうしたら得意になりますか?」と1学期に連立方程式の応用問題について助言を求められたので、少し難しめの問題集を貸与し、「ここを全解きした子が以前にいて、それはそれは強くなったよ」と言ったら、その日から行動に移していました
「まだお借りしていていいですか?」と時々その問題集を抱えて聞きにきます
少しずつ、少しずつ、自分で進めて、少しずつ自信をつけているようです


証明は犯人追及、濃度の解き方はビーカーの絵を必ず描く、
いずれも、
勉強が好きだった「中学生の私」が考えた解き方です
この仕事をはじめて思いついた解説方法などではなく、
自分自身が、
自分でしっかり理解するために工夫して編み出した解き方に過ぎません

だから、最初から教えないんです
どうしてもわからない、という質問に対し、必要に応じて紹介します
自分ではどうしたらいいかわからない、という勉強法に迷う子には、
いろいろな勉強法を紹介して、支えます

でも、誰にも質問できなかった中学生の私は、
自分で考えるしかありませんでした
でも、一生使える技を身につけました
これが、どんぐり的思考力なんだろうな、って自分で思います

あの頃は、まさに、「学ぶよろこび」に満ちていました

誰かに、魅力的な授業をしてもらったわけでも、
特別な勉強法を身につけたわけでもなく、
ただただ、わからないことをわかるようになりたかった、
知らないことを知りたかった、
できないことをできるようになりたかった、
ただそれだけだったのです

今の私は、
小学生の基本的な思考力を最大限に広げ、伸ばすためのサポートと、
中学生の独学、自分なりの努力と工夫を、できるだけ支えることと、
学ぶよろこびを満たすためにあるのだ、と実感しています

他の誰より楽しんでいて、そして、
子どもたちが学ぶよろこびで目を輝かせる瞬間を、
見逃したくないのです