カードゲームで遊んで、
それぞれが机についてからこの子がこう言うまで60分ほどだったでしょうか

「そろそろ時間だよ、続きは次回にするか」
そう声をかけるとこの子は
「ここまで解けたんだよ、最初からここを勘違いしていてさ。
だから、もう一回ここからやり直したのね。でも、まだまだかかりそうだし、要するにそういうことかあ!ってなったところでさ」
「うん、じゃあ、つづく、にしようか」
「いや、お宝にしておくよ、少し間をあけないとだと思うんだよね」

すぐ解き直すと、前回の思考癖が抜けない、というようなことをブツブツ言いながら片づけて帰りました

そのことを、お迎えに来たお母さん達と立ち話で話していたんです

この子の親御さんも「ええっ!そんなことを?」と驚いていましたが、
その他の親御さんも「そういう判断ができるんですねえ」と感心していました

私は小学生とも中学生とも一緒に勉強していて、
小学生と中学生とでは大事なことは全然違うなあ、と思っています
小学生には時間がたっぷりあります
習い事をしなければ、放課後や週末は暇で暇でしょうがないはず
その「暇」が、小学生を賢く豊かにすることを、
大人は忘れてしまっています

いっぽう、中学生は忙しいです
部活や、課題に追われ、定期テストも次から次へとやってくるので、
なんにもなくて暇な時期はわりと少ないようです
1,2年生の頃はそれでも、テストが終わり、部活もそんなにハードでなければ、
じゅうぶんに時間があるようですが、3年生になると世間体もあるのか、なかなか自由に動き回れないようです

小学生の頃は自由に伸び伸び過ごすことを理想とする親御さんたちも、
中学生になるとなんだか成績の数字が気になってしまって、
小学生の頃のように大らかに接することができなくなる…と悩んでいる方も多いようですが、
私は、お子さんが中学生になってからそんなことで悩む必要はないと思っています

小学生の頃に自由に伸び伸び過ごすことができたのだったら、
中学生以上で心配することは少ないはずです
私が心配なのは、
勉強ができるかできないか、なんてことよりも、
気持ちが守られているか、心が守られているか、という点です

ある受験生は成績は順調に伸びていて、
志望校への合格可能性はボーダーラインを超えていました
でも、ふとしたことがきっかけで、
すっかり気持ちが折れてしまったことがありました
その時は、
どんな言葉をかけても顔の曇りは晴れず、
目に涙をためてなんだかその日生きるのが精一杯、みたいな表情をしていました
心が折れる、というのはまさにこういうことなんだな、と
勢いのあった頃のその子を思い出すと、まるで別人のようで驚かされました
まあ、
時間とともにその子は自分自身で立て直し、また受験に挑んでいったわけですが、
それができるかどうか、ということが重要だと私は考えています

小さい頃なら、転んで泣いている我が子を抱き上げて、泣き止むまで慰めることができました
原因は転んだことと、痛みくらいでしょうから、それが解消されればまた元気に遊び出すのです

でも、大きくなると、慰め方も立ち直らせ方もそう単純ではありません
小さい頃のように、全身を預けて慰めさせてくれるとも限りません
どうしたらいいのでしょう

それは、
その子自身に立ち直る力が備わっているかどうか、
そこに重要な点があります

中学生や高校生にとっては、今や学校も予備校みたいに進学先のことを事細かに指導したり、理想を掲げたりするようになってしまい、そのために学校はあるかのような状態になっています
でも、学校がそうだとしても、その先の未来の環境がどうだとしても、
その子自身が自分の頭で考え、自分で自分の進む道を選び、ときには立ち止まり、ときにはやり直し、また、別の道を検討してみたり…そんなことをしながらも、自分の人生を自分で生きていく、できれば楽しんで生きていく
そんな風になっていてくれれば、
親としてそれより安心なことはないでしょう
たとえば中学生・高校生の間、
自分自身で、勉強のことも、他のことも、どうしようかな、どうやって生きていこうかな、って一生懸命考えることそのものが大事なのであって、評価や数値は一番大事なものではないはずです
もし、評価や数値をヒントに進路を考えるとしたら、他人が決めた基準を当てにせず、その子が生き生きと生きられる環境を一緒に考えればいい、ただそれだけだと思うのです

世間でいう高学歴とか、立派な会社や職業とか、誰かの決めた評価基準に我が子の理想を追い求めることより、我が子が自分の人生を生き生きと生き抜いていく姿を見守る方が、親だってずっとずっと楽しいものです

話は大げさなようですが、
60分も試行錯誤を続け悩んだ末、
「少し間をあけないと」と判断した小学生は、
きっとこの先の人生も、
そうやってうまいことやっていくんじゃないか、
そんな片鱗を見た気がしました

親御さんとの立ち話の中で、
「指示しない、教えないでいるとこうなるよ」と言うと、
「あ~、いちいち言っちゃってるかも」
「うん、助けを求められたらね、助けてもいいんだけど、そうじゃない場合はそのまま見守るのがいいのよ」
「求められたこと、そういえば一度もないなあ…」
「(笑)(笑)(笑)」
そんな会話をしていました
そうそう、親だって軌道修正しながら、
ケーススタディをしながら、
みんなで共有しながら、
やっていけばいいんです
試行錯誤をしながら、ね

このノートは私の「日報」で、
生徒さん1人につき1冊あります

夕べ、中3生の最後の授業日で、
それぞれの生徒の日報に最後の記録を書きました
10年通ってきている子の日報ノートは、ボロボロで補修しています
最初のあたりをぺらぺらとめくって見てみると、
どんぐり問題の解き方の記録があります
どんな顔をしていたか、どんなことを言ったかも書いてあります
門外不出、私以外の誰も見ないノートです

今日は群馬県公立校入試、初日です
祈りを込めて