Aさん

久々にメールが届いて嬉しかったです
3年生になったのでしたね

3年生になった…というか、もう、受験シーズンを目前に控えているのですよね

Aさんの目指す学校は県のトップ校なのですね
授業はものすごいスピードで進み、勉強を頑張らなければならない感じだけど、自由な校風で生徒主体でとても楽しそうなのですね

それで、1年前から目指していて、Aさんなりに努力をしてきたけれど、なかなか合格圏内に入れず悩んでいるのですね


実際にB県の受験事情も詳しく知らないし、Aさんの1次データ(実際にAさんがどのようにテストを受けて、どのような評価をされているのかがわかる答案用紙のこと)も見ていないのではっきりとしたアドバイスはできませんが、
今回のメールの文面から見て、2つのことを伝えたいと思いました

1つは、「死ぬ気で頑張る」という言葉の重さです

本当に死んでしまっては何の意味もないし、そんなに恐ろしい言葉もないけれど、
決死の覚悟をする、という意味では、この言葉を本当に行動に移すことができれば、Aさんは今後の人生における強大な力を手に入れることができます

ただし、「死ぬ気で頑張る」ことは、生易しいことではありません

そもそも、これまで1年間、難関校を目標に努力してきた、その度合いは、「死ぬ気で頑張る」状態と比較して、どれほどのものだったでしょうか

好きなことを我慢したり、集中できない気持ちを紛らすための工夫をできるだけしてみたり、1分1秒も惜しまずにたゆまぬ努力をしたのかどうか

勉強に終わりはない、と自覚し、テスト開始1秒前まで集中力を維持し、一切の邪念を振り払って努力を続けたかどうか

私には「死ぬ気で頑張った」経験が人生で何度かあるので、体感しているのですが、それは、本当に苦しく、難しいことだけど、でも、不思議とその最中は苦しくなくて、むしろ、寝なくても、食べなくても、精神的に追い詰められるようなできごとがあっても、全く動じない、切り替えられるのです
でも、それには、たぶん、相当な精神力が必要なのだと思います
それで、私の場合は、その努力によって心身を壊したことも実際にはありません

だから、私は「受験に必要なのは、学力よりも体力と精神力です」とあちこちで言っています

学力があっても、当日の緊張で力を発揮できなかったり、体調を崩してしまっては力がやはり出せませんからね

「死ぬ気で頑張る」ということは、そこまでのことを成し遂げる覚悟と、精神的、体力的強さが備わっていることが前提になります

それができれば、その志望校はAさんの志望校として成立すると思います

2つめは、「高校はあくまでも通過点」という言葉の正しさです

私も全くその通りだと考えます
今でもまだ、私の年齢か、もっと上の人たちは「○○高校出身だから」と誉めそやしたり、逆に、バカにしたり、そういったくだらない評価をする人はいます
大学も同じですね
東京大学が最高峰だと誰もが認めていて、受験戦争の勝者はその頂点に立つのが当たり前だと日本国民は思いこんでいます

多くの人に、わかりやすく「すごいな」って思われること、学歴を活用して、この先の人生を歩んでいきたいという目的があることなど、そういうものを目指すのであれば、それなりの高校や大学に努力して入学する意味はあると思います

でも、高校は義務教育を終えてもまだ勉強したい人のための教育機関で、大学進学のための予備校ではないし、大学は教育機関ではなく研究機関で、偏差値や人気度で選ぶのではなく、自分がどの大学で学びたいか、どの先生の元で研究をしたいのか、ということをよく調べて選ぶ必要があるのです

いま、N高校など、通信制の高校を自ら選んで進学する優秀な中学生がどんどん増えているそうです
大学受験予備校のような進学校に行くよりも、目指す大学に向けて、自分のペースで3年間準備する方が効率的だという考えの人が多いようです
それはまだ少し極端な例ですが、でも、それくらい、「どの高校に入ったか」は重要ではないということです

中学生のAさんにはまだしっかりとした将来のビジョンはないかもしれません
なくて当然です
そして、もしあったとしても、これからどんどん変わっていくのも当たり前です

私は、自分の娘が高校生になってその様子を見ていて感じるのは、高校生活って子どもの殻を脱いで大人になっていく子たちの、文化なんだな、ってことです

誰かの指示で言われたとおりに生きていくんじゃなくて、私たちは私たちの生き方を選びたいの!っていう、動きを見せ始めるんだな、って

中学生の頃も同じ思いはあっても、まだまだ先生が威圧的ですよね
まだ中学生なんだから、と大人にストップをかけられることも多いですよね

でもね、高校生は大人にそこまで指図されません

先生達も随分と変わります

ただ、Aさんの目指しているトップ進学校は、きっと、大学受験の実績を高めるために一生懸命な学校だと思います

どこも、トップ校というのは今はそんな感じです

昔のトップ校は、地頭のよい子が大半をしめていたので、課題も少なく、勉強するもしないも自己責任、と放任でした
校則も緩く、自由な校風で、いじめもなく、行事は生徒の自治が当たり前でした

でも、最近のトップ校は、そこに入るための訓練をしてきた子が多く集まってくるため、みせかけの学力(塾で点数だけをとる方法を教わってきた子たちの学力)で入学時の難度は上がっています
でも、実際に入学したあとは、地頭のよい子たちとは違って、なにからなにまで塾のように管理してもらえないと自分では勉強できない子たち(言われたことはこなせて、それなりに優秀な状態でやってこられたから)が大半を占めています
そのため先生達は課題を多く出し、一生懸命管理教育を続けるしかありません
その結果、生徒達のストレスが増し、昔では考えられませんが、トップ校でもいじめ問題が深刻になってきているのです

でも、もちろん、地頭のよい、心も頭も豊かに育っている子もいますから、どの学校もいじめがひどいとか、そういうことではありません

「鶏口となるも牛後となるなかれ」という諺があります

意味は調べてみてください

私は、この諺通りだなあ、と感じていた時期と、
全く逆だなあ、と思っていた時期とあります

結局、個々の人間の種類は全く違っていて、どちらが正解、というのはない気がします


長年つきあっている塾生だと、その性格や、考え方、勉強に対する要領のよさやわるさなど、総合的に判断して、アドバイスをします
それでも、「こうした方がいい」「この学校はいい、悪い」などという判断はしません

あくまでも、自分が3年間通う高校です

いくら周囲に褒められるような、驚かれるような高校に合格しても、やはり自分に合わない、と退学する子は毎年います

合うか合わないかは、実際に入ってみないとわかりませんが、とにかく、自分で選んで入試を受けたのかどうか、自分が入りたいと心から思っていた学校なのかどうかはとても重要なのです

誰かに言われたからじゃなく、自分で決めたのか、とういことです

いま、中学の先生にも反対されているということですが、それは、もしかしたら、日頃のAさんの勉強に対する様子などを見て、いくら今から「がんばる」と言ったとしても、Aさんの場合そこまで伸びることはないんじゃないか、と思っていらっしゃるのか、
または、そこまでの判断力はなく、ただただ、現時点の成績を見て、なるべく厳しめのことを言っているだけなのかもしれません

私の経験では、後者の先生の方がかなり大多数です

反対されたから、と志望校を変えたら、必ず後悔します
別の高校に入学した後に、その高校の子に会ったり、制服を見たりしただけで、胸が苦しくなって、つらくなります

そんなことにならないために、とにかく、本当に受験したい高校はどこなのか、もう一度自分の中で考えてみてください

反対されようが、「死ぬ気で頑張る」ことができれば、11月ですから、まだ間に合います

そこまでするよりも、通過点としての高校生活をもっと別の視点で考え直すのであれば、その憧れの高校以外の高校のよい点をもう少し探ってみてはどうでしょう

部活動とか、立地とか、制服とか、Aさんにとって魅力的な点が他の学校にあるかもしれません

え?そんなことで高校を決めていいの?って思いますか?

女子中学生や女子高生にとって、毎日通う学校の雰囲気や、制服、校則など、かなり重要事項ではないですか?
それを無視して学校を選ぶことはできないんじゃないでしょうか

B県の受験スケジュールはわからないのですが、群馬の例で考えると、いま、11月ですから、年内には年明けの「私立入試」の出願を決めることになります

もしそのトップ校が私立高校なら、そこで合格を勝ち取らなければなりませんから、残された時間はかなり少ないです

でも、もし公立高校なら、私立の併願校の合格を勝ち取ったのち、公立の出願の時期に入りますから、まず、その公立の併願校として定番となっているレベルの高い私立高校をしっかりと合格することが大前提となってきます

群馬では、「特待生入試」というのを私立高校が行っていて、最後の模試として活用できます
入試当日の点数だけで合否が決まるのと、点数や順位、合格ランキングも開示されます
1月にその試験を受けて、みな、公立への道を再考するのです

もちろん、特待生としてそのまま私立高校で入学手続きをする子もいますが、手続きは公立高校の入試が終わるまで待ってくれるので、公立高校に挑戦してから手続きをすることもできます


どうですか?
読んでいるうちに、自分の気持ちの整理や、入試までのスケジュールの想像など、できたでしょうか

じっくり、もう一度考えてみてください

そして、もしまたひっかかることがあったら、遠慮なくメールしてください

最後に、もしそのトップ校を第1志望校にするとしたら、
必ず併願校を受験することになると思います
そういう高校を「滑り止め」と言う人がいますが、私は絶対に言いません

どちらの高校に行くことになるのか、試験当日の結果によって決まります
誰にもどうすることもできませんし、実際には運・不運に関わることもあります

これから選ぶ受験校は、すべて、Aさんが、3年間通うことをイメージできる高校であることが必須で、第1志望以外の高校のことも、必ず「第2志望」「第3志望」と呼びましょう

第1が不合格なら第2に入学するだけのことです
滑り止めに入学するのではありません
どちらも、Aさんの志望校なのです

ではではでは

泉 聡子