どんぐり教育では、
漢字練習をしないとか、
計算ドリルをしないとか、
宿題に関する「環境設定」に戸惑う親御さんが少なくないと聞きます
何度も、どこにでも書いているのでもうじゅうぶん説明は済んでいると思うのですが、
それらの宿題や、それらの学習って、「なんのため」に子どもにやらせるのでしょう

はじめの一歩、の「勉強」で、
ただ闇雲に書かせたり、反復練習をさせたりすることで、
「机に向かう習慣がつく」と主張される方もいます
確かに、幼少期からの「訓練」により、
一定の時間、机に向かうことが苦痛でなく、当たり前のこと、と身につく子どももいるのかもしれません
うちの子は落ち着きがないし、物覚えもよくなさそうだから、せめて机にちゃんとついていられるように、と、小学校入学前から子どもに心構えをさせたり、学習教室に入れて練習させようとする親御さんもいるようです

小学校に入ると確かに決められた時間は机に向かって椅子に座っていなければなりませんから、そういう練習が功を奏する可能性はあります

でも、
長年、たくさんの子どもたちを見てきて感じるのです

ただ座っているだけ
ただ書いているだけ
ただ聞いているだけ
ただ解いているだけ

で、それ以上でも以下でもない子どもたちのあまりに多いことを

そういう子どもたちは、
全然見ていない
全然聞いていない
全然考えていない
全然、自分のこととして捉えていません

小学校の教員をしている友人が言っていたことがあります
移動教室の説明をひとりひとりの顔を見てじゅうぶんにした直後、
手を挙げる子どもがいる
「せんせーい、どうしたらいいんですか?」

教員は言ったのです
何度も説明したのです
まず、自分の荷物を持ち、廊下に出て、音楽室に移動しましょう、と
でも、説明が終わって「はーい」と揃った返事をさせた直後、
「せんせーい、どうしたらいいんですか?」
と尋ねてくる子が必ずいるのだと

なかには、聞き取りづらい、理解が早くない、など特性を抱えた子もいます
だから、一度の説明で全員が理解できることが正解、ということではありません
私はその教室の様子は知らないけれど、でも、知っています
子どもたちがあまりにも、自分の目で見ない、自分の頭で考えないことを習慣化していることを

漢字練習をしないと漢字は書けるようにならない、と主張する方がいます
私は漢字が得意な方で、私の子どもたちも塾生の何人かも漢字が得意です
でも、私も、娘達も、漢字がかなり得意な方だな、と思える塾生達の何人かも、
小学生時代に漢字練習をさせられていません
それは、どんぐりの環境設定で我が家も、塾生のご家庭も、
学校と交渉して宿題制限をしていたからです
私はどんぐりっこではありませんが、
漢字は練習する前に勝手に興味を持って覚えていました
練習する宿題は出されたけれど、何も考えず、心を込めることもなく、ただ機械的に、全く集中せずただ埋めて提出していました

それでも、なぜ、漢字を覚えているのか
それは、漢字をよく見ていて、文字を使うことに興味を持っていて、漢字を知るときにそれに付随する情報を知ろうとしてきたからです
そうしろ、と誰かに言われた訳ではありません
それぞれが自動的にそうしているんです
学校でテストされるよ、と言われれば、子どもによっては「よーし!」と気合いを入れて、テスト範囲の漢字をちゃんと覚えているかどうか、自分で確認をする子だっています
そうしろ、と誰かに言われた訳ではありません

先日、
「予」という漢字の話を中1のクラスでしました
最初に掲載した、私の教室の中学部D→K Roomで毎回実施している「高校入試漢字テスト」にまつわる雑談からでした
「予め」っていう訓読み、知ってる?と聞いたら、誰も知らなかったので、この読みの言葉が使われる日常生活のケースを寸劇的に説明してみると、何人かが「あらかじめ…?」と答えました
そこで、今度は「予」が使われている熟語をいろいろと見つけてみました
予定、予言、予期、予熱…
全部「予めしておくこと」だよねえ、って

毎回、そんな話題のきっかけとなる自作教材を配布していますが、
「素通り」する子が増えているのが本当に気になるのです
たくさんの問題を解かなくてもいいから、
今、一生懸命取り組んだ問題の後始末を、徹底的にやってみたらいいのに
これってどういう意味なんだろう、って考えようとしてみればいいのに
テストを受けた後、
書いたり解いたりした後、「はてさて…」と立ち止まって頭を動かしてみればいいのに
なぜ子どもたちは、そういうことをしないんでしょうか

それは、
闇雲にただ書かせる、ただ解かせる、ただ聞かせる、など、頭も心も動かさないで済むような、作業的な学習を、小さい頃からさせられているからなのです

宿題を制限していても、学校の授業が宿題と同じような反復練習だったり、タイムを計ってできるだけ速くなんらかの教材に取り組ませるだったり、そんなことをしている、させられている、と聞くこともあります
そんな授業をする意味は全くわかりませんが、少なくとも、家庭ではそういうことをさせない、そういうことの意味はないんだ、と親御さんがしっかりと信じている、それだけで、子どもはだいぶ脳を守られるんじゃないかな、目の前の教材をちゃんと自分の目で見て、自分の頭を動かして考える、というごく当たり前のことを放棄せずに成長するんじゃないかな、って思うのです

もしかして、
御家庭内で率先して、「ちゃんと見ない、自分の頭で考えない」ことを助長するような学習や、生活習慣を推進していないかどうか、チェックしてみてください
子どもが親の言葉に心を傾けず、ただただ叱られたくないからこなしているようなことが増えていないか、思い返してみてください

漢字練習をしないと漢字が覚えられない、なんてことはないし、
漢字練習をしたから漢字が得意になる、ということもありません
計算ドリルも同じです
いえいえ、それでも、最低限の学力はそれで身につくはずですよ、と反論してきた学校の先生がいました
そうですか、それなら、日本全国の宿題をちゃんとこなしている子たちの学力は相当なものですね、と私は言いました
その先生は、「学力は身につくはず」とおっしゃったけど、教え子が中学生、高校生になってどのような学習状況なのか、全くご存じなかったのです

「学力」ってなんでしょうか
誰かにつけてもらうものなんでしょうか
教育関係者は簡単にこの言葉を発するけど、
ちゃんと説明できる人はいるんでしょうか

いくらどんぐりをやっていても、
それと対極にあるようなことを防げずにいたら、進化はありません
でも、防ぐことができたら、信じ抜くことができたら、
子どもたちは自分の目で目の前にある教材の中身を見て、
自分の頭で考えて、自らの手を動かし始めます
そんなの誰もがやっているはず、と思っている人が多いかもしれません
でも、私より長い時間、私より多くの子どもたちを見てきた、という経験がある人から言われない限り、私はそういう私的見解を受け入れることはできません
自分がそうだったから、
自分の子がそうだから、
近所の子がそうだったから
せいぜい3~4人の子ども、その成長の例だけを信じて、
何か、間違った確信をしていませんか

目の前で漢字練習をしている子がいたら、
まず聞いてみてください
その字、なんて読むの?
どういうときに使われるの?
他にどんな言葉で使われるの?
知らないまでも、
興味を持つでしょうか
嫌気が差すような顔をするでしょうか

漢字は表意文字です
ひとつひとつが意味を持っていて、それは、いちいち教えてもらえるものではありません
ただ、
知らずに学び取っている子もいます
心を注いで漢字を見ている子たちは、自然と探究心を持ち、
自分で調べたり誰かに聞いたりして低学年の頃からひとりでに、
少しずつ知識を増やしているんです
そんな学習態度を後付けするのはとても難しいことです
そうしなさい、と強制されてできるようになるものでもありません

ただただ、そう育つために必要なことは、
闇雲に書かせたり練習させたりしないことです
それでもちょっとは書かせた方がいいんじゃないの?なんてぐらつかないことです
子どもが書く、ということをそんなに軽視しないことです
無理矢理書かせたら、書くこと自体を嫌いになり、
無理矢理読ませたら、読むことも嫌いになり、
わかっているのに反復させれば嫌気がさすし、
わかっていないのに反復させれば苦痛でしかないでしょう

「予め」の授業中の話題のときも、
全く興味がない、という顔をしている生徒がいました
「え!そうなの!?他に予のつく熟語はないかな…」とキラキラした目をしている生徒もいました
その二者において、実際の点数や成績等で差が出るのは必然です
でも、その差を後で外から埋めることはできません
埋めることができるのは、内側からのみ、つまり、当の本人だけなんです
だから私は全員に、いつまでもそのチャンスをちりばめています
気づいて、気づいて、そこに心を傾けるだけでいい、それだけで学ぶことが楽になるから

それでも、
学校からは無差別で大量の課題が出され、それを期限までに終わらせないと…と相談されれば、とにかく埋めて提出するんだよ、と悲しく吐き捨てるしかできません
1問1問、じっくり考えて…なんて言えるほど時間が残っていないことがほとんどなんです

宿題や定期テストをやめた学校もあるというのに…と生徒たちの課題のリストを見るとため息が出ます

でも、学校の方針を私たちがすぐに変えることはできません
ただ、子どもの思考力を強靱に守り育てることはできます
学校の方針に振り回されない頑丈な子を育てることはできるんです
中学生になっても、高校生になっても、すり減ることのない不動の思考力を、
小学生の間に育てることができるんです