ほんものの学力を育む家庭環境
データからわかった重要なことのひとつは、小学2年生のことばの力において、また数の直感的な理解や推論の力において、すでにかなり大きな個人差が生まれ、それが学力の差として表れているということである。ということは、小学校に就学する前に保護者の養育態度と家庭環境によって育まれたことばの力、数の理解、認知能力が学力に大きく影響することは想像に難くない。
日本における「全国学力・学習状況調査」の保護者に対する質問調査を分析したお茶の水女子大学の研究チームは、家庭における絵本の読み聞かせや読書のすすめ、自立を促すしつけや人間形成に関する働きかけ、就寝起床、朝食など生活習慣に関する働きかけ、テレビゲームや携帯電話に関する時間制限のルールなどが、小学6年生の子どもの学力によい影響を及ぼすことを明らかにしている。
と、始まる付録部分の「家庭教育がどうあるべきか」に言及した部分はほんの少しですが、最後に興味深い部分があったのでさらに引用します
第1は、本のある家庭環境である。ここには、子どものための本はもちろんのこと、家庭にある全ての本があてはまり、図書館で借りてきた本も含まれる。身近に本のある家庭環境は、家族がいつでも本を手にして読むことが容易になることを意味し、それはさらに読書習慣につながると考えられる。そして、本のある家庭環境は、ことばの力とともに、数の抽象的な概念理解、関係や類推関係の理解を支える認知処理能力と推論力を育み、さらに、国語と算数の学力を高めていた。
第2は、読書習慣である。子どもが小さい頃に絵本の読み聞かせをすること、そして、現在、子どもがよく本を読んでいることは、ことばの力はもちろんのこと、数や形の力を育み、国語と算数の学力を向上させていた。
第3は、もっとも強調したい点である。就学前に、子どもが自ら関心をもって、ひらがなに興味を示して読んだり書いたり、数を数えたりしたことが、国語と算数の学力テストの得点を向上させていた。また、就学前に、生活の中で、時計を見て時間を意識させることも、学力に影響を与えていた。それに比べて就学前に、子どもにひらがなや数字を教えることによる学力への影響は、子どもが自発的にことばや数字に興味や関心を示すことよりも、弱いものであった。つまり、言葉や数字を直接教えるより、子どもがことばや数に自ら自然に興味をもつように環境を整えることが、就学後の学力を高めることにつながるということが示されたわけである。

さらっと読み流し、おや、やっぱり読書習慣が大事ね、たくさん本を読ませなくちゃ
おや、そうでしょ、早く文字や数字や時計のよみ方を教え込んだ方が有効なんだね、教えなくちゃ
と、
勘違いしないでくださいね

最も大切なことは、赤字の部分です

言葉や数字を直接教えるより、子どもが自ら自然に興味をもつように環境を整えることが学力を高めることにつながる

と、書いてあります

「直接教える」のは「学力を高めない」……
とは書いてありませんが、私の知っている様々な例を思い出しても、
そう言い切ってもいいくらいだよなあ、と思うわけです

たとえば
就学前に親が幼児用ドリルを購入し、
一生懸命文字や数字を教え込まれた生徒がいました
小学校1年生で私のところに来た時には、
足し算も引き算もできるよ!と自慢していて、
周囲のまだ計算を習っていない子に「そんなのもできないの?」とひたすらマウントをとっていました
どんぐりは数字ではなく絵で描くし、
足し算もせず数えて見えるように答えを導くものなので、
計算で解きたいその子は文句ばかり言っていました
数字より絵でゆっくりでも楽しげに一生懸命絵で解いていた子と他の子との進化の差は、
段々と開いていきました
いまでもとにかく雑で、心のこもっていない解き方を続けています
恐らく計算問題のプリントを渡せば、先取りしていた子の方が早いし、正確にできるのでしょう
でも、どんぐりは急いで解くものでもないし、解き方が決まっているわけでもないので、低学年時代はひたすらのんびり楽しげに解いていた子が高学年になり最強脳を手に入れ、中学生では楽勝、という流れで成長する子が私の生徒には多いです
むしろ、低学年時代はお宝ばかりで、でも、一生懸命楽しく描いていた子が、高学年になるとどんぐりをする意味を理解し、ぐんぐんと伸びていくような例が
でもこればっかりは、
ここから各家庭に帰り、私ではなく親御さんがどんな環境を作るか、どんな言葉かけをするかにかかっているのです
たとえば前述した生徒の例では、
教室でのどんぐりが軌道に乗ってきても、まだ家ではテストの成果や、宿題、テキパキと生活するかどうかなどに親が執着していました
ある夏休みの前に、「宿題は最初の3日で家族総出で終わりにしましょう」と話すと、「お母さんが宿題をやれって言ったから僕は宿題をするんだよ」とその子は言いました
「そんなはずはないよ、お母さんはわかっているはずだよ」と私が言うと、
「お母さんは宿題やりなさい!って言ってるから僕はやるよ」
私は
それ以上は何も言いませんでした
その子が就学前にドリルで先取りし、
1年生になって周囲にマウントをとったり、どんぐりをバカにしたりしてどんぐり進化がいまいちなのも、わかる気がしました
「直接教える」のは「学力を高めない」の最たる例です
そう、
親は教えることのプロではないし、
たとえ職業的に教えるプロであっても、
「我が子」に対し教えることのプロである必要などなく、むしろそれが弊害となることさえあると、教えるプロの仕事をしている人ならわかっているはずです

先取りして教え込むことで、
「これができることはエライんだ」と子どもは思い込み、
それが、「できないことはエラくないんだ」と短絡的な思考につながり、
周囲をバカにする、という性格的に問題ありありな行動言動に出るわけです
そして、私の見る限り、周囲にマウントをとったり、周囲をバカにしたりして傷つける子どもの特徴は、「自信のない子」に多いので、きっと、親は教えながらも、出来不出来を評価し、できることを褒める(これも問題)のはもちろんだけど、できないときにあからさまに不満を表情に出したり、低評価をしたりしてしまっているんだと想像できます
子どもは、そのストレスを、周囲に対し発散しているのです

そんなこともわからず、相変わらず家で環境を整えるどころか、
どんぐりをやっていても宿題を徹底的にやらせたり、ドリルをやらせたりして「学力」を確認したい親がいるのもまた、その親自身の「自信のなさ」「不安」の表れなんだろうな、と想像はしてみるのですが、目の前で、みすみす、伸びるはずの力を、かけがえのない子ども時代、つまらなくて間違った指導法で時間の無駄遣い、貴重なエネルギーの浪費をしてしまっているのを見ると、悲しくて、なんとか止められないか、と、こうしてしつこくブログや通信に書き続けているわけですが、読んでもきっと、ご自身のことだとは気づかないのでしょう

親だから、
子どもに教えるのなんか簡単だし、
親だから、
子どもに教えるのも子育てのミッションの一つだ、
と思っている人がまだ多いとしたら、
それは違う、と何度でも言います

子どもに教えるべきは「勉強」ではない
「文字」や「数」でもありません

子どもが自らそれらを獲得する気持ちになるような環境を整えることで、
親が教える何倍もの知識を勝手に得るし、
なによりノンストレスで自由に楽しんで際限なく獲得していくのです

教えないのに覚えるわけない
教えないのにできるだけない

と、思っている人がまだいるようですが、
(うちは漢字練習をしてこなかったので漢字が書けません、というどんぐりっこの親御さんがまだいます)
それも大きな間違いです

子どもは教えられたことを覚えるのではありません
教えられたことを覚えるのなら、毎日何時間も「教えられ」に学校に通っている子たちは知識が相当豊富で、漢字など、全てその場で覚えていてもいいくらいです
それどころか、世間一般の子どもたちは毎日漢字練習をしているのに、計算ドリルだって毎日練習してるのに、楽にそれらを覚え、楽にそれらを理解して解いている状態ではありません
もしそうなら学習塾や計算塾は不要なはずです

電車のことならなんでも覚えるんだけど…
虫のことなら何でも知ろうとするんだけど…
それがヒントではないですか
興味のあることには知識欲がある
もし、
文字や数に関して「興味を持たせ」たかったら、(学校時代の成績を重視したいのだったら)
決して「教える」ようなことはせず、
それらに自然に興味を持つような環境を整えればいいだけですし、
別に、
それだけが「学力」ではありません
それに、世間一般でいう「学力」が、これから、全ての子どもたちに備わっているべき大切な力かっていうと、そんなこともありません
それに、前述の「性格的に問題ありあり」な状態が私には最も心配です
いくら「学力」が高くても他の何の力が身についていても、
周囲を傷つけながら身勝手に生きる人間に成長してしまったら意味がないと思います

いずれにせよ、
親にはどんな力もつけてはやれないんです
子どもは自ら、必要に応じて力をつけていきます
楽しくければ自然と身につけていくんです
手出し口出しをされた瞬間、純粋なそういう気持ちは後ろに回り、
親からの評価がやる気の基準になってしまう現象も珍しくありません
そうなると子ども自身の素直な思いは見えづらくなり、
子ども自身がひとりで生きていくとき、
自分の人生を生きるとき、
必ず苦しむことになります

最近では、
自分自身がそうだった、
実はとても苦しかった、と打ち明けてくれる親御さんが多いです
高学歴な親御さんに多いので、きっと、そのまた親御さんが、
学校での成績を重要視して、そのことを基準に子育てをなさったからでしょう
親になってもまだ、自分が受けた教育、親からされたことを思い出し、
苦しんでいる
自分はどう人生を楽しめばいいのか、と悩んでいる
親になり、どんぐりを知って、子どもをどんぐりで育てたいと思うのに、
自分の育ちとあまりにも違って、わからなくなってしまう

親御さん自身の育った時代と、
お子さんの育ついまは全く似ていない時代です
それが一番の救いかな、って思います
これでいいんだ、って自分の経験とは切り離して子育てができるはず
もちろん、
時代がどう変わっても大事なことは変わりません
子どもが成長する過程、発達上大切な時期と大切なことは、
太古の昔からほとんど変わっていません
だから、
時代によって子育てが変わることもないんです
それを死守するのがどんぐりで、
実践するのは親御さん自身です
どんなに時代がハイスピードで流れているように見えても、
地球は同じ速さで回っていて、
時間は同じに流れています
そのことを、忘れないでほしいのです

たくさんの子どもたちと出会い、
たくさんの親御さんの悩みを聞いていると、
やっぱり思うのです
変わるべきは大人側だと

さあ、ご自身のことだと気づいてくれるでしょうか

気づかず、ずっとどんぐりやってるけど一向に進化しないなあ、
やっぱりどんぐりじゃダメなんだな、ってくるりと背を向けてしまうかな

これまでも何度かそんな例はあったけど

夏休みも後半にさしかかりますね
お仕事や家事でお忙しい中、子どもがずっと家にいたり、イベントが多かったりする夏休みは、イレギュラーな生活で悩みも多発しているかもしれません
でも、子どものことがよく見える大切な時期です
どうか有効に使ってください

楽しい夏休み後半をお過ごしください